タイトルのまんまです。
世界が荒廃しちゃってヨーロッパしか住めなくなっちゃったけど他の土地にどんな勢力がいるか調査しに行くエージェントの話。
ルビタグとかも全部そのまんまです。
※言うまでもなくこのお話はフィクションです。
世界が荒廃しちゃってヨーロッパしか住めなくなっちゃったけど他の土地にどんな勢力がいるか調査しに行くエージェントの話。
ルビタグとかも全部そのまんまです。
※言うまでもなくこのお話はフィクションです。
酷い砂嵐だった。
カーティス・バーンズは、ゴーグル越しでも目に砂が入ったような錯覚に陥って、数度瞬きをした。防塵マスクは高性能だが、それでも僅かな隙間やフィルターから砂が入り込んでいる、様な気がする。
旧アメリカ合衆国南部、テキサス州跡地。
それでなくても高温と砂漠の土地として知られていた地域は、「気候変更」以後、すっかり死の世界だった。不毛の土地。全ての命を覆い尽くそうとするかの様に、荒れ狂う砂嵐。カーティスの足は埋もれそうになっていた。
全世界を同時に席巻し、水の惑星・地球を破壊した「気候変更」。その結果、地球上で人間の生存に適した場所はわずか一握りになってしまった。
国際連盟やEU、主要国は、唯一生存に適したヨーロッパで国際都市コスモポリスを建設。ここを中心に地上の生き残りたちを集めた。地球が、神から罰せられた地上にして、ノアの方舟になった瞬間だった。ここまでの気候変動で、多くの人間が犠牲になっていたため、多少無理はあったがどうにかヨーロッパ中心でどうにかまかなえる人数だったのである。
しかし、自ら望んでその枠に入らない者、あるいは旧来の国際秩序の枠組みからして入れない者も当然いる。国連はそれらを放置することはできないと判断した。人道的な見地は当然として、安全保障の面でも危険であると判断した。もし、どこかのコミュニティがコスモポリスを奪い取ろうとしたら? その予兆を察知するためにも、各地にどんな集団があるのかは調査しないといけない。
各地にエージェントが派遣された。中東に、ロシアに、アフリカに、アジアに、そして南北アメリカ。今回カーティスが派遣されたのは、北アメリカだ。かつてテキサス州と呼ばれた土地に。気候変動で起きた土地の変貌はいくつかあって、砂漠化、水没、あるいは凍結だが、テキサスは砂漠化した。
聞いた話によれば、ここでは居残った人々によって、「砂の王国」が建国されているらしい。アメリカに王国と言うのも皮肉なものだ。王国から独立したと言うのに。「議会」と呼ばれる、貴族的な特権階級が牛耳っていて、お飾りとして「王」あるいは「女王」を頂くのだそうだ。
(結局、人間の考えつくシステムなんて似たり寄ったりと言うことか)
カーティスはその様に結論づけ、自分を納得させた。彼の祖先はアメリカの出身だった。カーティス本人は、アメリカを逃れてヨーロッパに移住した両親の元で生まれた。だからカーティスは荒廃していくアメリカの様子をしらない。否、写真では見たことがある。けれど、一度も足を踏み入れたこともなかった土地が荒れていく姿は、どこか遠くの国での出来事としてしか捉えられなかった。
そう言うわけで、今回も彼は特に何の感慨もなくこの調査を引き受けた。別に故郷アメリカに、と思ったわけではない。だって彼の生まれ故郷はヨーロッパだから。とは言え、多くのコスモポリタンがそうであるように、「ルーツ」としてのアメリカにはちょっとした結びつきを感じてはいた。
(それにしても本当に酷い砂嵐だ)
カーティスは、砂がボディスーツに当たる音、ゴーグルの表面を擦る音まではっきり聞き取れるほどの砂嵐に溜息を吐いた。その音も、風の音にかき消される。これが収まることはないそうなので、カーティスは諦めて――と言うか最初から期待もせずに――歩き始めた。
ざく、ざく、と、砂を掻き分けて進む。真っ直ぐに進む。確か、石碑のような天然の岩が立っており、その下が入り口だったはずだ。こうも砂嵐が酷いと、削られてしまうのも時間の問題だろうが……。
「……ん?」
不自然な砂の震動を、脚部に取り付けられた装置が感知した。振り返る。何も見えない。彼は銃を抜いた。また震動を検知。どんどん近づいてくる。震動が向かって来る方向に、目を懲らしても何も見えない。と言うことは……|砂《・》|の《・》|下《・》か!
咄嗟に後ろに下がったその時だった。砂の中から、生物的な形状をした、先端の尖ったものが飛び出して、カーティスの鼻先に突きつけられた。下がるのが遅かったら、マスクを貫通して鼻を抉られていたに違いない。それと同時に、その手前から一対の鋏。
「|蠍《さそり》か!」
目の前の尖ったものは、蠍の尻尾と言うことだ。砂漠ならそう驚く様な生き物ではない。しかし、サイズが桁違いだ。あまりにも大きすぎる。異常気象や環境の急な変動で発生した突然変異だろうか。対人間を想定した、護身用の小型銃では心許ない。蠍に限らず、この手の節足動物は頑丈な外殻を持っているからだ。それが巨大化したら、頑丈さも増すだろう。哺乳類の柔らかな皮膚や筋肉を裂く威力だけでどこまで太刀打ちできるか。
「こちらバーンズ! 砂漠で巨大蠍と遭遇した! ハンドガンで応戦する!」
早口で本部に連絡を入れる。応援を送り込めるような距離ではない。ヨーロッパとアメリカなのだから。そして、援軍を待機させられるような場所があるはずもなかった。ほとんどが危険地帯なのだから。
カーティスは頭を狙って発砲した。案の定、その外殻は大きさに見合った頑丈さを備えている。まったくダメージになってないわけではないだろうが、縄張りに入った敵を逃がす理由にはならないのだろう。鋏を振り上げて追い掛けて来る。
「くそ……!」
現地の敵対的な人間に遭遇したときの為に、弾丸は残しておきたいがそうも言っていられない。今弾丸が当たった所を狙って、もう一度。めきり、と固い物がひしゃげる音がした。相手が僅かに怯む。
「このまま喧嘩したってお互いの為にならないぞ!」
言葉が通じるはずもないが、カーティスはそう怒鳴った。口から唾をまき散らしながら叫ぶ。蠍は吟味するように身構えたが、飛びかかろうとするかのように身を低くした。
「――!」
カーティスが敗北を確信したその時、別の方向から何かが飛んできた。それは蠍の背中に刺さる。黒くて長い物だ。槍か? 銛? どうやら後者の様だ。太く撚ったワイヤーが繋がっており、それが引っ張られて蠍も一緒に引きずられて行く。
「……え?」
そのワイヤーの先を目で辿ると、一台のサンドバギーが停まっていた。銛を射出したのはそのバギーで、運転席に座っている人物がカーティスを手招きしている。彼は慌てて駆け寄った。
「助けてくれたのか?」
「僕もアレに用があってね。乗って」
どうやら若い男の様だ。助手席を指す。運転手は、カーティスが乗り込んだのを確認すると、何かのレバーを引いた。銛が勢い良く引っこ抜かれ、巻き取られる。刺し穿たれた穴から体液を溢しながら、這々の体で逃げようとするサソリに向かって、彼はもう一度銛をお見舞いしたのだった。
サソリが動かなくなると、男はバギーをUターンさせて走り出した。
「ちょっとね、アレの仲間が来ると困るから」
「アレは何なんだ?」
「おっと、アレを知らないとなると君は誰なんだ? と言っても、アメリカに残って結局住むところがなくなったーって言ってここに彷徨って来る奴っていうのは結構多いんだけどね。多分、旧アメリカ南部で真っ当にコミュニティ運営をしているのはうちだけだろうから」
「と言うことは……」
カーティスは、相手が上手いことこちらの素性について早合点してくれたのを良いことに、本題へ入った。
「君は『砂の王国』の住民か?」
「そうだよ」
彼は屈託ない声で笑う。
「顔は後でお見せしよう。僕はクラレンス。クラレンス・アーチボルド・ジョーンズ。自警団『砂の犬』の団長さ」
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